武井怜のこの世は遊び場

歌人、随筆家の武井怜のブログです

歌人・エッセイスト 武井怜のブログです

【笑えるミス】

10月23日(木)

 

仕事で関わっているYさんが、必要な資料を私の家の最寄り駅まで届けてくれるとのことで、朝9時に待ち合わせをした。
しかし9時を過ぎても彼は姿を現さなかった。連絡も来ていない。外出は私にとって気分転換になるため、迷惑は被っていなかったが、15分を過ぎても現れず、「名探偵コナンなら、彼殺されているんだ」と思った途端に、これは異常事態なのかもしれないと思い始めた。
異常事態。そう思うと、彼に対して「もしかしたら」という考えが3つ浮かんできた。寝坊、事故、実は車で来ている、という「スリーもしかしたらズ」である。名探偵コナンがきっかけで異常事態だと思ったわけだが、殺人だとは思わなかった。やはり日本は平和な国だ。
「スリーもしかしたらズ」の3つ目、車で来ているかもしれないということ。 とんちではないが、彼は前日の電話で、「駅まで来る」とは言ったが、「電車で来る」とは一言も言っていないのだ。もしこれで本当に車で来ていたら、彼を「一休」と呼ぼうと思いながら、それらしい車がないか、駅の周りを一周しようと歩き出した。
そのときである。彼から電話がかかってきた。彼は「山手線が遅延していて」と嘘をついた。どうして嘘だと思ったのかというと、彼が来る場所から私の家の最寄り駅までは、自分への戒めのため遠回りをするなどといった謎の行動をとらない限り、または丸い緑が大好きでない限り、山手線は使う必要がないからである。彼が自分を戒めていないとか、丸い緑が好きではないと、完全には否定できないが、私は、彼は私に資料を届ける予定を忘れていたのだろうと思った。
しかし彼が遅れた本当の理由は、予定を忘れていたからではなかった。後に別の人から偶然聞いたのだが、私の元に届ける資料となる映画のDVDを、彼はヤフオクで500円で落札したらしい。しかし会社に届いたのは、その映画のフライヤーが1枚だけだったらしい。彼は映画のDVDとフライヤーを間違えて落札してしまったのだ。つまり彼は、500円で映画のフライヤー1枚を買ったのである。そんなミスがあったため、私の所へ来るのが遅れたらしい。
居酒屋でアルバイトをしていた頃、上司から「笑えるから許す」と言われて、ミスを叱られなかったことがある。それは上司にとって、ミスによってかかった負担と、私のミスで笑わせられたことによって、がん細胞が減ったことへの、私に対する感謝の気持ちを天秤にかけたとき、後者の方が大きく出たからかもしれない。今回のYさんのミスで、がん細胞を減らすことができたと感じる上司がいるのであれば、その人は彼に、「お前500円でフライヤー1枚だけ落札するなんて、どこまで映画好きだよ!」と笑いかけてやってほしい。