武井怜のこの世は遊び場

歌人、随筆家の武井怜のブログです

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【変わってほしくないもの】

11月3日(月)


【変わってほしくないもの】
大人のきのこの山」というのは如何な響きかと思うが、大人のたけのこの里、大人のチョコボールなど、最近、私達が子供の頃から知っているお菓子の大人版が増えてきている。噂では大人のホームランバーも発売されているらしい。
そんな大人になったお菓子は、私達人間のように千歳飴に歯を破壊されたり、突然の雨でみんながコンビニで傘を買う中、ひとりだけトランクスを買う人を目撃したり、自暴自棄になって、あの日八柱駅前でナンパして「くれた」人に会いたくなったりしながら大人になったわけではなく、実際は人間の力で、昨日までポップにピョンピョンだったのを急に黒いパッケージの大人にさせられたのだろうが、その姿を見た私は、「あら、あなたも大人になったのね」と、一緒に成長してきたような感覚に浸ることができ、心地良い。
先日、小学4年生くらいの少年と、自転車を押す彼の母親とすれ違った。少年は、学校でどのクラブに入るかを迷っているような話をしていた。時刻は空も暗くなり始めた18時台であった。私は彼らの光景を自分の子供の頃と照らし合わせ、歩きながら涙を流した。勝手ながら、彼らの時間は永遠に今のままであってほしいと願った。
少年は、「サッカークラブ」や「給食の後」などのアクのない言葉を、空気入れたてのボールのように弾ませながら発していた。彼のその口が、その言葉にうなずきながら真剣に話を聞いてくれている彼の母親に対して、「うるせぇ」とか「なんでファブリーズかけてねぇんだよ」などという言葉を発するようにならないでほしいと願った。彼には出身大学の名を盾に、八柱駅前でナンパをするような男性になってほしくないと願った。彼には突然の雨でみんながコンビニで傘を買う中、ひとりだけトランクスを買う人には、別になってもいいと思った。
チョコボールやホームランバーは大人になっていったが、お菓子の中にも、彼らのようにずっとこのままでいてほしいものもある。「ウメトラ兄弟」なんかが大人になったら、3兄弟が遺産相続に関して揉めている光景しか頭に浮かばないのだ。