武井怜のこの世は遊び場

歌人、随筆家の武井怜のブログです

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【売れ残ったわけではありません】

11月10日(月)

 

【売れ残ったわけではありません】

ほぼ常に何かしらのフェアを開催している近所のパン屋が、北海道フェアの次はイタリアフェアを開催した。11月だし、鍋パン?鍋パンって何?鍋っていたら何?もつ。つまんない。つまんない?寄せ!よくわかんない。ちゃんこ!とおべんべんと話しながらパン屋へ向かうと、イタリアの国旗の柄をバックに「イタリア」と書かれたのぼりが目に入った。季節を考えたフェアを予想していたため、誰がイタリアフェアを予想したよという気持ちが思わず声に漏れたが、ピザが大好物な私にとっては嬉しい驚きであった。

ピザパンやカルボナーラパン、フォカッチャの他にも、お菓子やデザート系の商品も並べられていた。イタリアフェアに気をとられるのもいいのだが、私がそのパン屋を好きな理由はフェアだけでなく、レギュラーで販売されているパンも美味しいからなのだ。そして、前回行ったときに、とうとう消えたと思っていた塩パンがまた並べられていたのも嬉しかった。

そんなパンの中に紛れて、というか店内に入ったときにまず視界に飛び込んでくる位置に、おばけの顔がチョコで描かれたパンが並べられていた。それはハロウィンの時期にも販売されていた、要は売れ残ってしまったパンであった。しかし今日見たそのパンは皆、ハロウィンのときにはなかった、お子様ランチのチキンライスなどに突き刺さっている、つまようじの国旗を抱いていた。言うまでもなくイタリアの国旗を。ただ並べられているのなら明らかに売れ残り商品なのだが、イタリアの国旗を抱くことによって、イタリアフェアに馴染もうとしている姿が健気であった。私はおばけのパンの、別に売れ残ったわけではありませんからというプライドを傷つけまいと思い、買わなかった。

家でカルボナーラパンを食べながら、塩パンを頬張ろうとしていたおべんべんに、あのお店って、消えたと思ったパンがまた出てきたりするよねと言った。おべんべんはおばけのパンのことだと思ったのだろうか。おばけだけに、消えたり現れたりするよねと言った。私は、今日一でうまいこと言ったねと、おべんべんを称えたのだが、考えてみればうまくないのだ。おばけのパンは消えたりしていない。ずっと現れている。だって売れ残りなのだから。