武井怜のこの世は遊び場

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【炊飯器が偉そう】

12月5日(金)

【炊飯器が偉そう】
おべんべんの実家から玄米を頂いた。
私は玄米が初めてだったが、数年前は玄米を毎日食べていたという玄米先輩のおべんべんの話によると、白米よりは味が落ちるということだった。
しかし体に良いとしか聞いたことがない玄米、どんなものかとワクワクドキドキで食べてみたら、甘みがあり、白米より美味しいではないか。もみ殻の歯応えも大好きだ。
というわけで、我が家で玄米を炊く生活が始まった。
うちの炊飯器は、炊き始めるときは「キラキラ星」を、炊き上がったときは、題名は知らないが、
ソラソドソラソララソラソファミレミド
ソラソドソラソララソラソファミレド
という曲を、それぞれ電子音で流すのだ。炊き上がりの曲は、小学生の頃、リコーダーのテストでやったことがあるから覚えていた。
炊飯器といえばキラキラ星でしょ、ソラソドソラソの曲でしょ、ということならば何も思わないが、そうではない。
同じ仕事をしている他の炊飯器は、「ピーピーピー」で知らせることを知っているからだろうか、うちの炊飯器のキラキラ星らが苛立たしい。
「シゴトシマシタ、ホメテ」というアピールに思えるのだ。
身の周りの何もかもが、実用性よりも見た目重視だった、ひとり暮らしをしていた頃、ものすごく安くて可愛い炊飯器を通販で見つけ、飛びつくように注文した。
しかし届いたのは、鍋にコンセントがついたような、予想以上に実用性のない炊飯器だった。
表示窓ひとつなく、コンセント以外に電子機器的要素がないそれは、遊びに来た友人に、一時間に一度のペースでバカにされた。
その炊飯器には突起したスイッチが尻尾のようについていて、炊くときに上向きのそれを下げ、炊き上がった米の重さに押されて、再びそれが上に戻れば炊き上がりということだったのだが、前述のとおり、コンセント以外に電子機器的要素がないそれは、スイッチが上に戻るときの「カチン」という物理的な音だけが、炊き上がりの合図だったのだ。
その音は、満員電車で三人ほど隔てたあたりの距離から、「ゴハン、タケマシタ」と囁かれる程度で、聞き逃すことも多かった。
そんな謙虚な炊飯器を今の炊飯器に見習ってほしいが、尻尾スイッチの炊飯器が炊いたご飯は、いつもまだ半分米であった。
そして私が注文した直後に、そのメーカーは潰れた。