武井怜のこの世は遊び場

歌人、随筆家の武井怜のブログです

歌人・エッセイスト 武井怜のブログです

【カワセという人の電話番号】

12月30日(火)

【カワセという人の電話番号】
つい先日まで、自宅のすぐ隣にあった工場の解体工事が行われていた。
その工事現場の前を通ったとき、私とおべんべんは目を疑った。
コンクリートでできている壁に、一文字が、「白鶴〜まるっ」のポーズをしたときに出来る丸の大きさで、カワセという人の携帯番号が書かれていたのだ。
そこには建設会社の名前も書かれていたから、カワセという人はその工事の関係者で、現場の人がそれを書いたのだろう。
仲間内に知らせるだけで充分であろうカワセという人の携帯番号を、どうして私達通行人の目にあまりにも飛び込みやすくデカデカと書いたのだろう。
現場内の人間関係が悪く、みんな誰とも話したくなかったのだろうか。
たとえそれが、業務連絡であるカワセという人の携帯番号であっても。
思えば私が家にいても、工事現場からはマシンガンのような機械音の他には、「オーライ」の声しか聞こえてこなかった。笑い声など一切ない。
きっとそうだ。
あの人達はみんな、仲が悪かったのだ。
カワセという人の電話番号を、カワセという人から聞いた人が、現場のみんなに直接伝えるのが嫌で、みんなが絶対に目につくように、集中力を高める効果があると言われている青色を使って、私が指をさして笑うほど、あんなにデカデカと書いたのだ。
高校時代、よく行っていた公民館の図書館では、入館時に名前を記入しなければならなかったのだが、途中から個人情報保護法の関係でそれがなくなった。
個人情報というのは、私が高校生のときで、このデリケートさだ。
それなのに、カワセという人は。