武井怜のこの世は遊び場

歌人、随筆家の武井怜のブログです

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【冨を掴む】

5月26日(火)

【冨を掴む】
打ち合わせの日は、聞かなければいけないことを聞きそびれたらどうしようと思い、緊張する。
私は人見知りでもあるから、その打ち合わせが初顔合わせも兼ねた「顔」と「打ち」を同時に合わせる日だったらもっと緊張する。
今日がその日だった。今後この文中に、「顔合わせ兼打ち合わせ」という言葉をたくさん用いていくと思う。「顔合わせ兼打ち合わせ」では長いから、まるでビンタをし合うイベントのような、「顔打ち合わせ」と凝縮した呼び方をしよう。
二十七年間付き合ってきてさすがにわかってきたのだけれど、私は人見知りだ。人と会ってもどうせそこまで口数を発せないだろうとみて、顔打ち合わせの日はいつも、自分がノリの悪い人でないと思われたくて、元気っ子っぽくお団子頭にしていくのがいいかと思う。
けれどお団子頭は髪の毛を引っ張るから頭痛がすることがよくある。顔打ち合わせは健康面でも万全な状態で臨みたい。ただでさえコンタクトレンズからくる目の疲れで頭痛がすることも多いのに、お団子頭までもが頭痛を誘発して、後になって困るのではないかと思い、お団子頭をするかやめるか迷うのだ。
けれど今日は、長い時間が掛からない顔打ち合わせだったから、お団子頭で行くことにした。
お団子にする髪の束をお団子にする位置で片手で押さえ、目の前のテーブルに置いておいたヘアゴムをもう片方の手で掴んだ。
取れない。
もう一度掴んだ。やっぱり取れない。
ピン留めの山に埋もれているから取りにくいのだと思った。片手でキープしている髪の束が、うっかりするとゆるくなってしまう。急いでヘアゴムを掴まねば。
ピン留めの山をかき分けたら、ヘアゴムの真ん中に「冨」の字が見えた。
私が掴もうとしていたのは、漫画「ハンターハンター」の単行本の表紙に書かれた、作者冨樫義博先生の「冨」の字だった。冨、樫、義、博が一文字ずつ黒系の丸で囲まれていたのだ。