武井怜のこの世は遊び場

歌人、随筆家の武井怜のブログです

歌人・エッセイスト 武井怜のブログです

【しんけみがわ物語】

6月3日(水)

【しんけみがわ物語】
電車の中で近くに立っていた男の子が持っていたゴム製の恐竜の人形の長いしっぽが、終始私のスカートの中にあった。
私は心の中で男の子に、どうかその恐竜を上に振り回さないでくださいと強く願った。
漢字が読めない年齢なのだろう。彼はドアの上にある、駅の名が書き連ねられた表示を見ながら、お父さんに駅の名を千葉から三鷹に向かってひとつずつ尋ね始めた。私としては、その駅名でひとつでも彼の興奮ポイントがあってはならなかった。先回りして予測したところ、「新検見川」が危ういと思った。子供はちょっと変わった響きに反応する。塾講師をしていた頃、小学生の男の子に、「著す」の読み方を間違えて「ちょす」と教えてしまったことがある。間違いに気づいたのは、私が「ちょす」と言った直後に、今までおとなしく話を聞いてくれていた彼が「ちょす・・・」と言ったからだ。違和感を感じたのだろう。
電車の恐竜の彼も、きっと「しんけみがわ」は反応すると踏んだ。「けみ」あたりのせいだ。
踏んだところでどうにもならない。人がいて位置をズレることもできないし、私はおとなしく、「新検見川」で世間様にキティちゃんのブルマみたいなやつを晒そうと心に決めた。
ここで終わりにしておく。