武井怜のこの世は遊び場

歌人、随筆家の武井怜のブログです

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【運命を逃したぞ】

6月9日(火)

【運命を逃したぞ】

吉祥寺駅で腰をかけて電車を待っていたら、私とまったく同じリュックを背負った女性が、私の横を通り過ぎて行った。
同じリュックなことに運命を感じてほしくて、私は彼女の視界に私のリュックをねじりこませるべく、彼女を小走りで追いかけた。
私が彼女を追い抜き、視界に私のリュックが入った彼女は、「あ、あの人私と同じリュックだ!これ売れ筋で最初手に入らないくらいだったのに、実際街に出てみると誰も背負ってなくて、まぁ街に出て3歩進めば同じリュックの人に会うって状況よりは嬉しいけれど、世の中って一体どういう仕組みになっているのかわかり兼ねていたタイミングで、やっと見つけた!同じリュックの人!ていうか最近『THE NORTH FACE』って書いたリュック背負ってる人多すぎない?」と思うことを予想した。
リュックが同じなのだ。少なくとも一部は気が合う証拠だ。うまくいけば友達になって、「このリュック、高いわりに機能性がないよね」「そうそう!チャックがうまく閉まらないときに、リュックにその言葉ぶつけてるー!」などと冗談を言いながら笑い合って、また吉祥寺で会う約束をして別れる。
同じリュックというだけのことでも、そこまで状況が進む可能性も視野に入れていた。
彼女を追い抜いた私が、友達がひとり増える心の準備をして彼女の方を振り向くと、彼女はなんとスマホをいじっていて、私のリュックには見向きもしていなかった。
彼女はひとつ、運命を逃したのだ。