武井怜のこの世は遊び場

歌人、随筆家の武井怜のブログです

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【カステラ事情】

6月10日(水)

【カステラ事情】
「彼女がいる男は女同然」
高校時代に、友達が名言のように言い放った。
うちに、文明堂のカステラがあったのだ。なぜなら一年前、洗顔フォームのフタをうっかりトイレに流して詰まらせてしまって、その後けっこう大丈夫だったのだけれど、ここにきて本格的に詰まって流せなくなり、消臭剤をトイレと部屋とに分けて買ったら、うちがブティックみたいなにおいになってしまった。ブティックブティック笑ってもいられず大家さんに隠し通せない状態になり、叱られるときの緩和剤として菓子折りを持って行くことにしたからだ。
冒頭の友達の名言で言い換えると、「人にあげるカステラはコンクリート同然」なのだ。そう割り切らないと、食べてしまう。
カステラを買うとき、私は泣きたくなるほど買い物が下手だと思った。会計とほぼ同時に、消費期限がたったの一週間しかないことを知ったのだ。
更に、大家さんを2日連続、日に2度訪ねたが毎回留守であった。
3日目訪ねて留守ならば、カステラは消費期限が近いから、新しい菓子折りを買いに行き、カステラは食べてしまうことにした。
そうなった途端に、カステラがカステラに見えかけてきた。しかも文明堂だ。
冒頭の友達の名言でいうと、その「男」が、彼女と別れそう、ということだ。しかもイケメン(文明堂)なのだ。
けれど結局彼は、彼女と別れなかった。
つまり、冒頭、カステラが「あった」と過去形になっているように、3日目で大家さんと会えてしまい、カステラを内心渋々渡したのだった。大家さんも文明堂のカステラアンテナが立ったのかもしれない。