武井怜のこの世は遊び場

歌人、随筆家の武井怜のブログです

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【踏切のトラウマ】

10月27日(月)


【踏切のトラウマ】
競馬で大穴を当てたとか宝くじが当たったとか、縁起でもないが事故にあったとか、そういう、人生が変わるような体験をした人達だって、その日の朝をいつものように変わりなく迎えたに違いない。
先日、私とおべんべんはいつものように最寄りのコンビニに朝ごはんを買いに行くため、8時過ぎに家を出た。私はおにぎりとカップスープを、おべんべんはカップそばを買って店を出た。そこまではいつもと何ら変わらない朝だったのだ。おべんべんが朝からカップそばを食べるのも日常なのだ。
私達の非日常はコンビニを出てから起こった。コンビニのそばにある踏切が、約40分間開かなかったのである。
とにかく「カンカンカンカン」の音が止まなかった。当然そこには、踏切を通過したい人の数が増えてくる。私達がいる側には、駅へ向かう働く大人達が増えてきた。私達がいる側をもう少し進んだところに中高大学一貫の学校があるため、踏切を挟んだ向こう側には、学生達の数が増えていった。未成年が大人に向けて不満を放つのには絶好の環境であった。
右から左へ、左から右へと電車を見送り続けて10分が過ぎた頃、私達は、「カップスープとカップそば、コンビニでお湯注いで来て、ここで食べようか」などと冗談を飛ばしていた。20分が過ぎた頃、「ビッグバン・セオリー1本観終わってるよ」と、放送時間約20分の海外ドラマを引き合いに皮肉が出てきた。30分を過ぎた頃、おべんべんが「そういうことだったのか、1本取られた!」というオチのミステリーネタを披露しだした。そして最後の10分間は、「ここまできたら、もう開かなくていい」と思っていた。
踏切が開いたときは驚いた。踏切が開いたことに対して、こんなに貴重に感じている自分に驚いたのだ。もうひとつ驚いたのが人の数だ。そこは「明るい家族計画」と書かれた、コンドームの寂れた自販機が近くに置いてあるような踏切なのに、そのときだけはまるで渋谷の交差点であった。そしてさらに驚いたのが、開いてすぐまた「カンカンカンカン」と鳴ったことである。1度で人が渡りきれなかった踏切なんて見たことがない。その日以来、踏切の前で3本以上の電車を見送ると、私とおべんべんは目を合わせるようになった。