武井怜のこの世は遊び場

歌人、随筆家の武井怜のブログです

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【あぶらつながり】

11月4日(火)


【あぶらつながり】
鼻の穴を塞ぐように鼻の下を持ち上げたときに鼻の下のにおいを嗅ぐと、無臭か皮脂のにおいか、またはミルクのにおいがするときがある。ミルクと言っても、自分から作り出されているにおいであるため、その不快さがかえって心地良く感じられるが、思わずシチューに入れたくなったり、得をした気になるようなにおいではない。私の鼻の下のにおいが無臭、皮脂のにおい、ミルクのにおいである確率比は2:5:3である。
同じ鼻の下でも、そこを伸ばしたときに嗅ぐと、無臭か、または皮脂のにおいがするだけで、ミルクのにおいは漂ってきたことがないのだ。
鼻の穴を塞ぐように鼻の下を持ち上げたときを、鼻の下の立場になると上に行くことになるため「上」として、鼻の下を伸ばしたときのことを、鼻の下が少し下に下がることから「下」としよう。
私の鼻の下は、上が無臭のときに下が無臭かまたは皮脂、上がミルクのときに下が皮脂、上が皮脂のときに下も皮脂という具合に、上だけがにおうという日はなく、上がにおう日は、必ず下もにおうのだ。
今日の上のにおいは皮脂であった。これで今までならば下も皮脂のにおいがしてきていたのだが、今日はそうではなかった。かといって無臭でもミルクでもなく、そこからは新しいにおいがした。
しかし残念ながら、アロマオイルのように気持ちにプラスをもたらすようなにおいとは反対の、これまた悪いにおいだった。刑事ドラマの身代金を受け渡すシーンで見るような、使われていない大きな倉庫で、体にフィットする黒い服を着た女性が、錆びた円柱形の物の後ろに隠れながらピストルを構えている光景が浮かんでくるにおいであった。
このにおいだ、と言えるものがなく、あえてこの世にあるものの中で一番近いものを決めるとするならば、ガソリンだと思う。
皮脂もガソリンも「あぶら」ではないか。私の鼻の下は、「あぶら」のにおいがすることが多いのだ。