武井怜のこの世は遊び場

歌人、随筆家の武井怜のブログです

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【感動ポイント】

11月22日(土)


【感動ポイント】
動脈も静脈もすべて涙腺なのではないかと疑ってかかるほどに、最近の私は涙腺がゆるいのだ。
例えばテレビで、ケンカをしていたカップルが仲直りをするときに、お互い歩み寄るだけで涙が出る。しかし、お前の涙腺、曙のズボンだな、と一緒にテレビを観ているおべんべんに思われたくなく、泣くのをこらえるのだ。
中学、高校時代はとにかく笑い上戸であった。注意してもおしゃべりをやめない私達に先生が怒鳴り、一気に静まり返った教室で、何がおかしいのか自分でもよくわからないが、笑い出しそうになってしまうときは、頭の中でお葬式のことを考えた。しかしお葬式のときは、これ以上考えられる悲しい場面がなかったため、笑いをこらえきれず、葬式パニックに陥った。
それとは逆に今、泣くのをこらえるときは、歩み寄るカップルを見ながら、これはお金の貸し借りの場面と自分に言い聞かせ、感動を薄れさせるのだ。すると脳が騙されてくれ、目頭に向かっていた涙が踵を返すのがわかる。
また私は、感動ポイントが人とズレているような気がする。前述のカップルの仲直りの場面で、どうして泣きそうになったかというと、それは感動したからなのだが、感動したポイントが、彼女の化粧品だった。
彼に会うために彼女は化粧をしていたのだが、その化粧品が、かわいそうというか切なく感じたのである。親子が抱き合うシーンなどでも、そのハグによって潰された服の繊維がかわいそうと思っているのだ。ただし、繊維かわいそうという気持ちで泣いているのではなく、繊維かわいそうと思う気持ちが、どうにかなって感動に変えられ、最終的には感動して泣いているのだ。しかし感動ポイントは結局、化粧品や繊維に対してなのだ。