武井怜のこの世は遊び場

歌人、随筆家の武井怜のブログです

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【私はコンクリートジャングル、東京に住んでいるよ】

11月16日(日)

 

【私はコンクリートジャングル、東京に住んでいるよ】

20歳のときの「一度会ったらお友達」という自分の中での合言葉を貫くバイタリティーもなくなってきている現在、友達と呼んでいい存在の人が私の中で少ないように感じる。しかし日本での友達は減っていく中、海外の友達は増えてきているのだ。

英語をマスターしたい、海外のコメディドラマの登場人物達のような人間関係を築き上げたい、ニューヨークに行きたい、これらの理由で以前、海外に住む人達と知り合えるサイトに登録をしたのだ。それからというもの、そのサイトにログインをしているときを中心に、世界中の老若男女からメッセージが送られてくるようになった。やりとりは基本的に英語だが、なんとなくのニュアンスはつかめるため、会話を続けることができる。しかし私はまだ、彼らのジョークに対応できる力は持ち合わせていないのだ。そのため以前、「僕は電気で動いているよ」というアメリカの人からのジョークを、彼はそういう病気なのかと思い、お大事にねと返してしまった。こうした、ジョークを真に受けてしまって面白い返答をできなかったことが過去に何度かあるのだ。これは海外のコメディドラマの登場人物に憧れる私としては、何とも悔しい体験なのである。

先日、ブラジルの人からメッセージが送られてきた。そこには、普段はポルトガル語を使っていて、英語があまりできないけれどメッセージを送ったということが書かれていた。私は、「初めまして。メッセージありがとう。私もあまり英語ができません。」とだけ書いたが、それだけだとなんだか冷たい印象を与えてしまう気がしたため、最後に“Haha”と加えたのだ。「初めまして。メッセージありがとう。私も英語があまりできません」だけだと、書いてこそいないが、「じゃあ今後のやりとりは無理ですね」という無言のメッセージを送っていると思われてしまう気がするが、「初めまして。メッセージありがとう。私も英語があまりできません。ははは」では、だいぶ印象が変わるだろう。そして彼から、“loool”から始まる返信文が届いた。“lol”は「(笑)」の意味である。彼のoがたくさんついた(笑)は、ニュアンスとしては「wwww」あたりだろう。私は彼をノリの良いブラジリアンと見た。そして返信文の最後に、「僕はアマゾンのジャングルで暮らしているよ」と書かれていたのだ。

これはジョークなのかどうかがわからなかった。もしジョークじゃないのに私がジョークだと思い、「じゃあディナーはピラニアの煮付け?それともピラニアのディナーがあなたかしら?」などとジョークで返してしまったら失礼である。しかし本当はジョークなのにジョークじゃないと受け止めて、「本当に?ワイルド~!」などと送ってしまい、またあの悔しい体験をするのも嫌なのだ。

おべんべんの発想力は、宇宙の神秘よりも輝かしいものに感じられることがあるのだ。おべんべんにこの件を相談したところ、おべんべんは考えることもなく、「『本当に?私はコンクリートジャングル、東京に住んでいるよ』って送れば?」と言ったのである。ベストな返答だと思った。彼がアマゾンのジャングルで暮らしていることに対しては、「本当に?」としか言っていないため、ジョークと受け取ったとも取れるし、ジョークでなく受け取ったとも取れる。そしてジャングルにかけたジョークを、自分の情報の方に盛り込んでいるのだ。全米が震えるセンスではないだろうか。おべんべんはこの日、特に冴えていたようで、午後にも、自分が「テキサスのオオワシ」と呼ばれているプロレスラーに見えると言っていた。

おべんべんが容易く生み出したジョークを書いて送ろうとしたときに、彼からまたメッセージが届いた。家に帰る時間だからまたね、という内容だった。私は行き場を失くしたジョークを消し、「良い夜を」と書いて送った。