武井怜のこの世は遊び場

歌人、随筆家の武井怜のブログです

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【やっと愛された】

5月14日(木)

【やっと愛された】
近所に、私が乗れるサイズの白い犬がいる。犬は日中、マンションの柵付きのとあるスペースにいる。私はそこを通り掛かるたびに犬に手を振ってきた。
そんな私に対して犬はいつも、「どうせ『人目を気にせず手を振っている、他の人とは違う自分』を通行人に見せたいから手を振っているのだろう」という目で見つめてくる。私も残念ながらそれは否めないから、その冷めた視線が痛い。だけど本心の中の本心は、犬にだけ興味を向けたいと思っている。犬にはぜひ、そこまで読み取ってほしい。
けれどその犬にはまだそこまでの力はないらしく、ざっくり言うとぶりっこだと思われている私は嫌われていると思っていた。
先日犬の前を通りかかったら、そこにカップルがいた。
犬は彼らに対しても、「お互い『動物好きの優しい自分』をアピールしたいだけだろう」というような、やっぱり冷めた目をしていたから、あの目は私に対してだけではないのだと安心した。
なんとそのとき、犬は目の前のカップルを差し置いて、前を通り過ぎようとする私の方へ、いつも寝ている体を起こして向かってきたのだ。
愛された。
はっきりとそう思った。
カップルが私の方を見ていた。嫉妬の目はこわいから目を合わせないようにした。優越感だけが高ぶった。